はじめに

私はこの9年でアパート、戸建て住宅、合わせて20棟200戸の不動産を取得しました。資産総額は約5億円。利回り10%を超えれば「まずまず」というご時世に、平均利回り20%超、なかには利回り50%の物件もあります。そして現在の年収は1億円超です。

でも、私はただのオバチャンです。
埼玉県北部にある羽生市という片田舎に住む普通のオバチャンです。

「羽生」というと将棋の羽生善治さんが有名ですが、こちらは「はぶ」ではなく「はにゅう」と読みます。
東武伊勢崎線の羽生駅前にはスーパーマーケットや小さな商店街がありますが、駅から200メートルも離れれば、たちまち田畑が広がります。道には耕耘機が行き交い、生バンドの演奏といえば、カエルの合唱です。

東京でビル群に囲まれた生活をしている方には、イメージできないかもしれませんが、こうした町は、地方にはたくさんあるのです。
全国どこにでもある田舎町に住むオバチャンが、ある日突然大家業を始め、どうやって年収1億円も稼ぐようになったのか?
本書では、その秘密についてお話ししていきます。

私は不動産の専門家ではありません。
9年前まで、専業主婦のかたわら自宅でミシンを踏んでいました。

羽生は衣料品生産がさかんです。町工場の人がライトバンに布を積んで家まで持ってくる。それを期日までにミシンで縫うという仕事です。作業服、看護士服、ブラウスなどを担当しましたが、私は、技術がないので部分縫いしかできません。服1枚全部仕上げられれば、1枚当たり1000~1500円くらいもらえるのですが、袖だけ、襟だけという部分縫いはスズメの涙。手間賃が安いのです。ひと月やってもせいぜい5万円程度でした。
でも、3人の子どもを育てている時期でしたから納得していました。子どもたちが帰ってきたとき家にいて、「お帰り」と声をかけ、おにぎりをにぎってあげる。それが母親の仕事です。ミシンはその片手間でした。

やがて一番下の子どもが大学を卒業し、子育てが一段落したので、働きに出ようと思いました。1998年の秋頃のことです。
行田市のハローワークに行き、求職申込書を書きました。それを見た女性職員は、「中卒ですか・・・・・・」と残念そうにひと言。

最初はピンときませんでした(「私の学歴は高校中退じゃなかったの?」)。私は自分が「中卒」であることを、初めて自覚しました。

「どんな仕事がご希望ですか?」
「何でもいいです。お掃除なら主婦なので得意です」
「いまはお掃除も若い子がやるんですよ」
「はあ・・・・・・」
「パソコンはできますか?」
「できません・・・・・・」
「何か資格を持っていますか?」
「いえ、何も・・・・・・」
「それじゃあ、あまり仕事はないと思いますけど・・・・・・。一応そちらに資料がありますから、見て行ってください」

求職リストを見ると、「中卒可」は、ほとんどありません。中卒可の仕事は深夜労働か土木作業でした。それは無理です。夜は働きに出られないですし、この年になって穴掘りはいくら何でもきつい。

「世の中、学歴じゃない、なんてきれいごとじゃないか。よーし、決めた。誰も雇ってくれないなら、自分で仕事を始めるぞ」
そんな思いから大家業を始めることになったのです。

でも、何分素人の体当たりですから、最初は失敗ばかりです。
不動産屋さんに、「掘り出しもの」を勧められ、喜んでアパートを買ったときのこと。カギを開けたら、目の前に便器がゴロンと転がっていました。トイレには、穴がポカリ。慌てて横の部屋を開けると、柱が鉛筆の先のように削られていました。おそらく猫が爪を研いだのでしょう。
全7室のうち、購入前に見学した2部屋だけがまともで、あとの5室は痛みがひどく、そのうちの1室は柱がなくなっていて、もう1室が便器がゴロン。私と主人は、便器が転がっているアパートの床に座り込み、途方に暮れました。

管理面でも痛い目に遭いました。
ある外国人入居者さんが退去することになりました。この人は数か月分の家賃滞納があり、立ち会い時に清算することになっていました。ところが、約束の時間になっても現れません。
しばらくすると携帯電話が鳴りました。
「ああ、大家さん?ボク、もう行けないから」
「ちょっと、待って。いまどこ?」
「成田ダヨ。今日の飛行機でブラジルへ帰るからね」
私は慌ててしまい、家賃保証会社に電話をかけ、
「お願いだから成田で止めて。飛行機を止めて!」
と叫んでしまいました。

こんなこともありました。
私がしばらく音沙汰のない部屋のドアをノックしていると、
「その部屋の人、引っ越したんじゃないの?」
「え?」
「この間、大きい荷物を運び出していたよ」
慌てて家賃保証会社に電話をして入ってみたら、もぬけの殻でした。

こんな手痛い体験をしながら、少しずつ不動産のことを学び、現在に至ります。
本書では、私が体当たりで会得したノウハウを初めて、明かしていきたいと思います。

私は、大家業には主婦の感覚が大切だと考えています。不動産の世界は男性がほとんどですが、女性の目線、主婦の目線というものが、結構役に立つようです。
あるアパートを取得する際には、多くの不動産業者から「あんなボロ物件は絶対に買うべきではない」と止められました。
しかし、主婦の目で見ると、少し手直しすれば魅力ある物件に生まれ変わるように思えました。結果として、取得したときには空室率92%だった物件が、ほどなく満室になり、利回り32%をたたき出しています。

主婦が井戸端会議で培ったコミュニケーション能力も大家業には欠かせません。
たとえば、管理していくうえでは、入居者さんとのコミュニケーションが大切です。落語に登場する「くまさん」「はっつあん」のような関係をつくるべきです。
私はお掃除、草取り、点検、家賃の集金など、入居の方と月1回程度は必ず会っています。そうした関係ができてくると、不思議なことに家賃不払いやトラブルがなくなります。 不動産業者や融資を受ける金融機関の担当者とのコミュニケーションも大切です。これによって物件を優先的に紹介してもらったり、取得時に欠かせない融資の情報を聞き出したりしています。

競売物件の善し悪しを見分ける際にも、コミュニケーション能力を活かし、物件の近所に住む主婦から情報を聞き出すことが大切です。
また占有者との交渉はコミュニケーションそのものです。私は占有者とハッピー・ハッピーの関係をつくるために話し合い、希望する占有者には賃貸人になってもらいます。安く取得した競売物件を占有者にそのまま貸すことで、利回り50%をあげたケースもあります。

また、取得した物件は自分の子どものようにかわいがっています。
私は、管理は業者任せにしないで、自分でお掃除やメンテナンスを行っています。お掃除はハウスクリーニング会社の研修に出かけ、プロの技術を学び、それを自分なりに応用しています。
また取得した物件は、夫と二人でリフォームします。完璧な物件は高い!だからわざと欠点だらけの物件を狙って、自分たちで蘇らせるのです。知り合いの大工さん、DIYショップの店員さんに聞きながら、リフォーム技術を身につけ、少しずつ修繕した結果、前述した便器の転がったアパートも見違えるようにきれいになり、現在、空室はまったくありません。

最近では、不動産関係の勉強会などで、お話しさせていただく機会が増えてきました。そこで自分では「当たり前」と思ってやってきたことをお話しするのですが、聞いている方々は、とても驚かれます。
本書では、そんな私流の不動産投資術をお伝えしていきたいと思います。

2007年8月吉日 鈴木 ゆり子